モバイルsuicaの不可解なトラブル

取材のため愛知県方面へ行く用事ができた。現地滞在時間が最短になるよう調整し、大手町駅に向かう地下鉄東西線の中で、いつものようにエクスプレス予約を利用して「のぞみ」を予約した。

8時39分の「のぞみ211号」を予約し、東京駅の日本橋口に着いたのは8時30分。いつものようにApple Watchをタッチして、東海道新幹線の改札を通過しようとした。

ぴんぽーん「予約がありません」

おや? どういうことだろう。iPhoneを確認すると、ちゃんと予約は完了している。もう一度タッチするが、やはりエラーが出て通過できない。

有人改札へ行き、履歴とエクスプレス予約アプリを確認すると「エクスプレス予約に登録されたSuicaIDと、Apple WatchのSuicaIDが一致しない」ことが判明。エクスプレス予約とJR東日本のえきねっとに登録してあるIDは末尾4桁が34xx、これに対し、いまApple Watchに入っているIDは末尾4桁が45xxだというのだ。

それはおかしい。機種変更はしていないし、先月も東海道新幹線をこのApple Watchで利用したばかりだ。

発車時刻まであと4分。

「それでは、このままご乗車いただいて、車内か下車駅でお申し出いただけますか」

係員は、「乗車駅証明書」を渡してそう言った。

ひとまず、「のぞみ」には乗れた。座席で改めて確認すると、確かにApple WatchのIDは45xxになっている。しかし、先月27日に新幹線に乗車しているし、モバイルSuicaの利用履歴はそれより前の4月11日まで遡れる。今日も、東京メトロ東西線はこのApple Watchで乗車できた。うっかりミスで、別のIDに入れ替えてしまったということはあり得ない。

通りかかった若い車掌に申し出たが、首をひねるばかり。

「下車駅で申し出てもらえますか。その場合、現金で通常の運賃・特急料金をお支払いただくことになるかもしれません」

それでは、1000円くらい大損である。とんでもない、と思ったが、若い車掌は本当に解決方法が分からないようなので、名古屋駅で申し出ることにした。

そして、名古屋駅。改札口で状況を説明すると、係員は即答した。

「機種変更をすると、IDが変わってしまうんですよ。最近、Apple WatchかiPhoneを機種変されたのではありませんか」

いや、iPhoneを機種変更したのは去年の秋だから、それはない。だが、ここで思い出した。前回新幹線に乗った出張から戻ったあと、iPhoneとApple WatchのOSアップデートを行っている。そこに原因があるのではないか。

Apple Watchのアップデートは今までも経験しているし、モバイルSuicaのアカウントはちゃんとiPhoneに待避させていた。だが今回は、iPhoneを5Ghz帯のWi-Fiに接続していたためにWatchのアップデートに失敗し、Watchを初期化するトラブルを何度か繰り返した。何度も初期化するうちに、モバイルSuicaのシステムが、新しいWatchが登録されたと勘違いし、新しいIDを割り当ててしまったのではないか。

モバイルSuicaのIDは、ユーザーアカウントに紐付けられるのではなく、端末に紐付けられる。同じユーザーアカウントでも、機種変更をするとIDが変わってしまう。これは、Suicaのシステムが1990年代に開発されたためだろう。当時はまだ世の中にスマホが存在せず、「機種変更」という概念が存在しなかった。Suicaは「Suicaイオカード」というプラスチックカードで利用されることが大前提で、別のカードや端末に、残高・履歴情報を移すという概念はなかったと思われる。

IDが変わっても、JR東日本のモバイルSuicaとして使っているぶんには問題ない。残高情報も使用履歴も、そっくり新しいIDに移るから、IDが変わったことを意識しないで使えるからだ。ところが、JR東海のエクスプレス予約はそうはいかない。エクスプレス予約に登録したモバイルSuicaは、機種変更をしてIDが変わっても自動的には変更してくれず、手動で従来のIDを削除し、新しいIDを登録という手順を踏まなくてはならない。困ったことに、JR東日本が運営しているはずの「えきねっとチケットレス予約」も同様だ。

JR東日本に問い合わせると、半日ほどでほぼ想像した通りのーーしかし、本当に要件だけ書かれた回答が届いた。

結局、名古屋駅の改札口で「のぞみ211号」のチケットは「使用済み」にしてもらい、その後IDも手動で34xxを削除→45xxを新規登録、という手順を踏んで使えるようになった。

Suicaは、決済のスピードこそ今でも抜群で、日々の決済はかんたんだが、実はシステムはだいぶ古くなってしまったのかもしれない。IDがアカウントではなく端末に紐づくという仕組みはあまりにも古いが、システムの根本的なところなので、変えるわけにもいかないのだろう。このあたりの仕組みは、PayPayやファミペイといったQRコード決済のほうがずっとスマートだ。

JR東海のスマートEXも、Suicaシステムの古さが足かせとなって登録が煩雑になっている印象だし、長距離列車のチケットレス予約は、いずれSuicaを離れてQRコードへ移ったほうが良いのかもしれない。