ある駅のカフェで

ある駅のカフェで   網走から、朝6:40発の釧路行きで南下。この釧網本線は、本線と言いながら全区間非電化単線のローカル線だが、全区間を通して車窓がすばらしいことで知られる。  オホーツク海の海岸沿いを走り、2月には流氷も見られる網走ー知床斜里間。無人地帯の峠を越える緑ー川湯温泉間。そして、ラムサール条約指定地の釧路湿原の直中を走る塘路ー遠矢間。海、山、湿原という北海道の自然美を、3時間で見せてくれる。  降りたくなる駅はたくさんあるが、今日は釧路駅まで乗り通す。釧路まであと1時間足らずとなった頃、対向列車と待ち合わせのため、10分ほど停車となった。  この駅には、かつて降りたことがある。駅前に、若い茶トラのネコがいて、湖に行こうとしたのをやめて遊んでやったものだ。  十数年ぶりに訪れたその駅は、周辺こそ全く変わっていなかったが、駅舎の中はカフェになっていた。それも、サボやタブレット、模型などがずらりと飾られた、鉄分濃厚な店だ。  しかし、店の人が見あたらない。駅舎内には、乗客らしい男性が二人立っているだけだ。まだ9時台だし、準備中なのかもしれない。  モーニングコーヒーでも飲みたいところだが、時間がない。とりあえず、駅の中の雰囲気をメモしておこうとカメラを構えた…… 「撮影は、ご遠慮ください」  とつぜん、背後から声がした。振り返ると、例の「乗客らしき」男性が無表情で立っている。一瞬事態が飲み込めなかったが、どうやらこの男性は店の人で、店内の撮影はお断り、ということらしい。  旅行者向けの「鉄道」カフェで、しかも駅舎を再利用した店なのに、写真を禁じてどうする、とも思ったが、店の方針なら仕方ない。 「ああ、そうなんですか。わかりました」  おとなしくカメラをしまった。店の「主人」は何も答えず、表情すら変えない。  別の鉄道ファンらしき男性が入ってきた。「へえ〜」と言いながらカメラを構える。 「撮影は、ご遠慮ください」  驚く鉄道ファン。10秒ほど固まった後、訪ねた。「ここ、駅じゃないんですか」。 「そちらは店舗になりますので」  また無言。微妙な空気が流れる。  対向列車の音が聞こえた。それを合図に、僕ら乗客はぞろぞろと列車に戻った。「主人」からは、もちろん何の言葉もなし。  客に落ち着いて食事やお茶を楽しんでもらうために、店内を撮影禁止にするのは理解できる。しかし、旅人が立ち寄るカフェを撮影禁止にして、何の得があるのだろう。  かなりいい感じのコレクションだっただけに、もったいない。