茨城交通湊線

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 この前の週末、知人のライターさんと茨城交通湊線に乗ってきた。水戸の隣にある勝田と、阿字ケ浦を結ぶ全長14.3kmの小さな私鉄だ。

 茨城交通は、他の多くの地方私鉄と同様乗客の減少に苦しみ、2008年3月末限りで湊線を廃止する意向を示していた。地元自治体が財政支援も視野に入れて存続を目指すとしたため、現時点では廃止の申請を見合わせている。いずれにしても、崖っぷちにあることには変わりない。僕は、今回が初乗りだった。

 珍しく早起きし、起点の勝田駅に着いたのは10時前。まずは、800円の1日乗車券を買おうと改札を出たが、茨城交通の案内がどこにもない。駅舎が別にあるのかと駅前に出たが、発車を待つディーゼルカーは見えたものの、駅舎どころか「茨城交通」の文字すら見つからない。

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 JRの改札で尋ねると、自動券売機のうちの一台で乗車券が買えると言う。確かに券売機はあったが、一日乗車券がない。改札内の湊線乗り場で売っているので、無札で入るとのこと。いずれ廃止になるのだからと、無視しているのだろうか。

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 10:40発の列車で、湊線の旅に出発。お目当ての、キハ20型気動車だ。普段は、キハ3710といった比較的新しい気動車が往復しているが、週末だけはファン向けに旧型気動車が運行されている。このキハ2005は、1971年に廃止された、北海道の留萌鉄道から譲渡されたもの。かつて全国のローカル線を走っていた、国鉄キハ22型とほぼ同じ車両で、僕にとっても懐かしい。

 誰かさんの影響で、行ったり来たりしながら、ひとつずつ駅を降りていく。

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 「湊線全駅下車」のハイライトは、中根駅。秘境駅として名高いこの駅は、水田が広がる平野の片隅にある。周囲に人家はほとんど見えず、誰が利用するのかわからない。「秘境駅」とはよく言ったものだと感心しながら、雑木林へ続く坂道を上ると、まもなく普通の住宅地に出た。なんだ、そういうことか。

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 隣の那珂湊駅は、湊線の中心駅。映画『フラガール』にも登場した、趣のある駅舎を眺めてから、港を目指す。駅前に人通りは少なく静まりかえっているが、車道だけは、県外からの車で延々と渋滞している。

 寂れた商店街を過ぎると、潮の香りが漂い、港の裏手に出た。通用門のような扉から、手近な建物に入る。瞬間、どわあっという喧噪。ここは、関東一円から観光客が集まる、那珂湊おさかな市場。もちろん、9割以上が車利用である。

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 観光地で、ソツなくおいしい海鮮料理を楽しみ、汽車旅続行。新旧2台の気動車がひたすら行き交うダイヤを上手に組み合わせ、日が傾く頃、終点阿字ケ浦に到着した。

 すっかり色あせてしまった保存車両に心を痛め、坂を下って阿字ケ浦海岸に出る。さすがに、海水浴客はもういない。

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 せっかくだから、最後はキハ2005で勝田まで乗り通したい。1時間ほど時間ができたので、もう一軒、軽く魚を食べていくことにした。時間がないので、目の前にあった、「磯料理・こころの宿 ごとう」ののれんをくぐる。海水浴客とつり客向けの、簡易旅館兼大衆食堂かなと思ったのだが……。

「それでは、お刺身の盛り合わせはいかがですか。一人分とありますけどね、けっこう量あって楽しめますよ」

 気さくなおばさんに薦められて、1575円の刺身盛り合わせを注文した。

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 赤身、鯛、かんぱち、甘エビ、イカ、タコ、ホタテなど、すべて大洗で水揚げされた刺身がたっぷり9点。ほんの一杯のつもりが食べきれず、気がつくと2本目のビールを空けていた。時間をいっぱいまで使って魚を楽しみ、二人で2800円。

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「おさかなには自信があるんですよ。今度いらっしゃるときは、是非お泊まりください。普通のお部屋もありますし、雑魚寝でよろしければ、1800円で持ち込み自由の広間もありますので……。また、アンコウ鍋の季節にいらっしゃってください」

 ほろ酔い気分で元来た坂を上がると、夕闇迫るホームに勝田行きのキハ2005が待っていた。この瞬間が、いちばん幸せだ。

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コメント

  1. ときわ路パス2007-2

    オマタセ、ベイベー。レッツ・ダンシング。
    11時52分、勝田4番線に到着。ここで8~11号車を切り離すが、隣りの留置線では戦力外となっている415系鋼製車を展示(?!)していた(貫通扉にある列車番号は9635M)。まさか見られるとは思ってもみなかったが、いずれ解体されることであろう。ちなみに415系鋼製車はJR九州では健在である(但し、大半はロングシートにして、内装をリニューアルしている)。
     
    415系鋼製車勝田車両センター留置車両表
    留置方向
    号車
    車両番号
    禁煙
    備考