鶴見線と猫

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 土曜日、鶴見線をぶらついてきた。

 鶴見線沿線には、猫が多い。海が近いからなのか、戦前からの古い住宅地があるからなのかはわからない。

 電車から、駅舎の隅に寝そべる猫が見えたので、ふらりと降りた。無人駅なので、まずはsuicaをタッチしてから、猫が見えた方角へ行ってみる。

 そこには、4匹の猫と共に、おばさんがいた。餌をやりながら、持参したらしいヘアブラシで、一心に猫どもをブラッシングしている。こんにちは、と会釈して、おばさんが写らないように気をつけてカメラを構えた。

「あなたね」

 振り向くと、おばさんが険しい顔でこちらを見ている。

「あなたみたいな人がね、写真をそうやって撮るでしょ。それを、ホームページに載せるでしょ。するとね、保健所がそれを全部見て、この子たちを殺しに来るのよ」

 そう言いながら、おばさんは魚のようなものを猫たちに食べさせている。

「だから、カメラというのは、本当に良くないのよ」

「……そうですか」

 申し訳ないけど、無視することにした。僕に興味をもったクロネコが、つ、つ、つ、と近寄ってくる。

「××ちゃん、いけません、こっちいらっしゃい」

 すっかり、僕は敵らしい。

"あなたの、そうやってノラネコに餌をやる行為。それを見た猫嫌いの人が、保健所を呼んだり毒をまいたりすることもあるんですよ"……

 そんな言葉が浮かんだけど、飲み込んだ。言い争ってもしょうがないし、ひたすらブラッシングを続けるおばさんの後ろ姿に、少し普通でないものを感じたから。

 鶴見線の乗り降りを終え、最後に安善駅で降りた。ここには、昭和初期に浅野セメント(現在の太平洋セメント)が建てた住宅が多数残る。昭和に迷い込んだような路地を歩いていると、オッサンくさい猫が昼寝を楽しんでいた。おい、と声をかけると、

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「やれやれ、相手してやるか」

 なんだか、ほっとした。