【韓国留学まで 3】 同期の退職

「俺さぁ、会社やめるんだ。世界一周の旅に出ようと思ってさ」。

 そう言って、同期のNはすぱっと会社をやめてしまった。僕はびっくりした。自分が無理だとあきらめていたことを、彼はさらりとやってしまったのだ。Nはバックパッカー向けの本を企画したことがあり、その方面の人脈にも長けていた。でも、まさかこれほどあっさり会社をやめるとは。しかも、長年付き合っていた彼女と籍を入れ、2人で出かけるという。

 驚くと同時に、焦った。

「今さら、もう世界一周はできないな」

 と思ったのだ。

「Nと同じことはできない。何か、他のことをしないと」。

 しかし、何をするのかは全然見当がつかなかった。Nが退社しなかったら、僕はそのまま「なんとなく」会社に残っていたことだろう。それはそれで、幸せだったのかもしれないが。

 Nは、結局2000年春から約3年にわたって夫婦で世界を旅した後、今は日本でIT関連企業に勤めている。

 さて、Nの告白?から、まもない3月。
 韓国観光公社から、FAMツアーの誘いが届いた。

 FAMツアーのFAMとはFamiliarityの略で、主に観光協会などが主催し、ある特定の地域や施設を「熟知」してもらうために、旅行会社やメディア関係者を招待するツアーのことだ。

 韓国は、前年の1999年、ハワイを抜いて日本人渡航者数がもっとも多い地域となっていた。

 しかし、その訪問先はソウル・釜山・済州に極端に偏っており、全羅道、江原道などの地方を訪れる日本人はほとんどいない。そこで、旅行会社企画担当者やメディア関係者を対象に、全国の観光物件を見せてまわるFAMツアーが企画されたのだった。

 1回目は、2000年4月上旬に4泊5日で実施し、主に韓国南西部の全羅道を中心に催行。2回目は夏を目処に江原道・京畿道をまわり、3回目も企画中……ということだった。

 旅行会社でなく、メディアまで招待されるというのは当時としては珍しかった。厳しいバーター(交換条件)があるわけでもなく、韓国担当になって間もない僕にとっても勉強にもなるだろうと、参加することにした。

 ……今考えると、このFAMツアー参加が最初のきっかけだったように思う。