日本ジャンプチーム低迷の原因は…?

 Yahooのトリノ五輪特集に、スポーツジャーナリストたちによる連載コラムがある。そのひとつ、生島淳氏による記事「観る前に読め! 日本のジャンプがイジメられてるって、本当?」が、同意しかねる内容だったので、指摘しておきたい。

 生島氏の記事の要旨は、こうだ。

 ジャンプに限らず、ノルディックスキー全般で、日本はいじめられている。複合や純ジャンプで日本が活躍することを快く思わない欧州勢が、日本に不利なルール変更をたびたび行ってきたからだ。長野五輪の複合団体で日本が5位に沈んだこと、ソルトレイク以降ジャンプが低迷していることは、こうした日本を狙ったルール改定の結果である……。

 いずれも目新しい主張ではないが、誤りだ。

 日本に不利なルール改定があったことは事実である。だが、今の日本チームの低迷の原因は、ルール改定ではない。そんなことは、今回のオリンピックでジャンプ競技の中継をちょっとでも観れば、すぐにわかる。技術に、明らかな差があるではないか。

 ジャンプ板の長さが「身長+80cm」から「身長の146%」に改められたとき、日本では「長身選手に有利であり、身長の低い日本選手を狙ったルール改悪だ」と言われた。だが、2000~2001年シーズンには、身長169cmのアダム・マリシュが圧倒的な強さを見せて総合優勝、「146%ルールでは身長の低い選手は勝てない」という日本の主張は誤りだったことがはっきりした。ソルトレイクシティ五輪で、個人の金メダルを独占したスイスのシモン・アマンも、172cmと小柄な選手である。「長身選手が有利」というのは明らかに誤りなのに、どうして未だにこんな主張を続けるのだろうか。

 空気をため込めない、ぶかぶかのジャンプスーツが禁止されたのも、日本に不利なルール改定だったというが、これもおかしい。ぶかぶかのジャンプスーツは、身体の大きい長身選手のほうが空気をたくさんため込めたわけで、むしろ欧州勢に不利な改定だったはず。そもそも、ジャンプスーツのルール改定は、技術向上著しいトップ選手が飛びすぎないよう導入されたものだ。もしあのまま、長野五輪当時と同じスーツを使っていたら、今ごろトップ選手は飛距離が出すぎて安全に競技できなくなっていたことだろう。「日本に不利なルール改定」というのは、見当違いの主張である。

 複合についても同様だ。ルール改定によって、ジャンプの成績で以前ほど差がつかなくなり、日本人選手に不利になったと言われるが、V字ジャンプ導入以前のルールのまま続けろというほうが無理な話だ。90年代半ば、複合でもV字ジャンプが完全に浸透し、飛距離が大幅に伸びた。その結果、ジャンプの占める割合が高くなりすぎたので見直されたのだ。だいたい、長野五輪で日本が団体のメダルを取れなかったのは、ルールの改定とは関係がない。もし94年以前のルールで競技を行っていても、ジャンプが不調だった日本チームに優勝のチャンスはなかったのだ。

 めずらしく怒ったエントリになってしまった。繰り返し言うが、当時の日本選手に、全体として不利なルール改定があったことは事実だ。だが、このコラムに見られるような「日本が低迷したのは、欧州勢のせい」という主張は、責任転嫁に他ならない。そろそろ、メディアは過去の栄光にすがるのはやめてはどうだろう。

 一生懸命戦っている日本代表選手たちに対しても、失礼な話だと思う。

追伸 同じコラムでも、荻原次晴はさすがに元競技者らしいいいことを言っている。ぜひ、読み比べてみてほしい。

コメント

  1. 歩き者 より:

    むかし惚れていた女性が、大のノルティックファンでして、
    彼女は冬期五輪はもちろん、
    特に好きなノルティック複合代表チームの合宿練習までも
    観に出掛けていました。(苦笑)
    日本のノルディックをとりまく構造的な問題について、
    当時から彼女は危惧していました。
    もう日本に戻っているかも知れませんが、
    今回も間違いなくトリノへ観戦に行っているはず。
    山頂からから会場へと吹き下ろす風は、
    きっとその温度以上に冷たく感じた今大会だったと思います。