長野オリンピック

 長野オリンピックが開幕したとき、正直言って最初はあまり興味がなかった。

 アルベールビル五輪の前後からノルディック競技が好きになり、ジャンプの中継は欠かさず見ていたというのに、なぜか長野は冷めていた。

 しかし、出張先の京都・二条河原町でジャンプのノーマルヒルを見ていたら、急に行きたくなった。日本で開催されるオリンピックなんてそうそうあるものではない。見に行かないと、人生の損失のような気がしてきたのだ。

 しかし、当時ジャンプといえば超人気競技。とっくに開幕しているというのに、今さらチケットが手に入るわけがない。それでも、訊くだけならタダだとばかりに、チケットぴあに電話してみた。

 「複合のほうでしたら、ご用意できます」

 意外な答えが返ってきた。キングオブスキー、荻原健司が出場するノルディック複合・個人ジャンプのチケットが残っているというのだ。しかも、競技は2日後。あとで聞いたところでは、海外で売れ残ったチケットが、最後に放出された分だったらしい。

 天祐とばかりに、そのまま会社を休んで夜行で白馬に向かった。

 初めて生で見るジャンプ競技は、すごいのひと言。とんでもない高さから、人間が飛んでくるのだ。スキーと身体が空気を切り裂く音が、はっきりと聞こえてくる。テレビで見るのとは全然違う。なんてすごい競技なんだ……。

 だが、僕にとっての長野五輪は、その日の午後がハイライトだった。

 競技終了後、そのまま純ジャンプの公式練習が行われ、複合の観戦客にはそのまま公開された。公式練習には、すべての代表選手が参加する。日本チームも、原田、船木、岡部、斉藤、葛西というレギュラーのほか、須田健一、吉岡和也という、本戦には出場チャンスの少ない選手も登場した。もちろん、彼らもジャンプファンにはお馴染みの選手であり、大きな拍手と歓声があがる。

 そして、日本代表、8人目の選手が登場した。

「みやひらー ひではるー! ニッポン! Hideharu MIYAHIRA, JAPAN!」

 会場が、凍り付いた。

 ……みやひら?

 明らかに、拍手が少ない。僕もスダケンは知っていても、みやひらという選手を知らなかった。

 「みやひらって、誰だろう?」

 僕は、この8人目の代表選手に興味を持った。

 「東京に戻ったら、調べてみよう。みやひらって、どんな選手なんだろうか」

 これがきっかけで、僕の人生はちょっとだけ変わってしまうのであった。

 さて、トリノオリンピックだ。つづく。