「かめりあ」で会った大学生

 ジョンウンとは、「ニューかめりあ」の二等船室で知り合った。

 ソウルの大学4年生。海外旅行は2度目で、長崎で行われるホームステイ・プログラムに参加するのだという。日本語はもちろん、漢字もほとんど読めない彼女。しかし、長崎なら博多から電車かバスで一本だ。駅まで迎えが来るというし、それほど心配は要らないだろう…。

 英語で書かれた予定表を見せてもらった。集合場所に、「Tairamachi station」と書かれている。どこだ、これ。

「クニミ、という町にあるんだそうですよ」。

 ちょっと待て。クニミって、サッカーで有名な国見高校がある国見だろうか。国見といえば、島原半島の真ん中くらい。Tairamachiとは、島原鉄道「多比良町駅」のことらしい。漢字が読めない外国人が、一人で行き着けるところなのか。

「長崎駅から船で行くらしいです。長崎までは電車で1時間ちょっとだとか」

 ますますやばい。長崎から島原半島の東側まで船が出ているなんて聞いたことがないし、博多から長崎まで1時間というのもありえない。なんだなんだ。

 もしかして、長洲?

 そう、彼女は、鹿児島本線、熊本の手前にある長洲(ながす)を、長崎と読み違えていたのだ。長洲は多比良町行きのフェリーが出ているところで、特急ならたしかに博多から1時間。だが、長洲駅からフェリー乗り場まではけっこう距離があるはず。そんなローカルなところに彼女を一人で行かせて大丈夫だろうか。大丈夫なわけがない。

 ここで僕は考えた。船で渡る有明海、だんだん近づく雲仙の山…。なんか、魅力的な旅とは言えまいか。

 決断した。

「明日時間があるので、多比良町までご一緒しますよ。面白そうですし」

 かくして、「見ず知らずの外国人を、福岡から自腹で島原半島まで送ってあげる、超親切な日本人」がここに登場した。ありえない。つづく。