中野の猫ものがたり01 「ピピとチュピ」

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▲母親になったチュピ。手前のゴタミケがラン。1978年ごろ撮影
僕が生まれた1970年代初頭、我が家にはピピという雌の白猫が飼われていた。
ピピは、我が家で飼われるただ一匹の猫。市販のキャットフードは絶対に口にしない、気位の高い猫だった。
1977年冬のある朝。近所の酒屋の倉庫で、数匹の子猫が拾われた。
その中の一匹が、うちで飼われることになった。名前は、「チュピ」。
ピピは、自分以外の猫が来たことにプライドを傷つけられたが、泣き叫ぶ赤ん坊を見て、黙認することにしたらしい。いじめたりしない代わりに、徹底して無視を決め込んだ。
さて、幼いチュピが、親を恋しがりピャーピャー泣いていたある日のことだ。
泣きわめく子猫をしばらくじっと見ていたピピが、静かに立ち上がった。
自分の餌の皿から魚の切り身をくわえ、すたすたすた。
チュピの前に、ぽん。
そのまま、何ごともなかったかのように立ち去った。
ピピがチュピをかまった、最初で最後の出来事である。
1年後、チュピは大人に成長し、我が家にちょくちょく遊びに来ていた野良猫と結ばれた。そして生まれた3匹の猫が、ラン、スー、ミキ。スーとミキは里子に出され、ラン(写真手前)が我が家に残った。
ランがようやく乳離れしたある日、チュピがいなくなった。手を尽くして探したが、彼女はそれきり帰ってこなかった。
時々、隣の家具屋の倉庫で遊んでいたチュピ。きっと、家具屋のトラックに乗ったまま、どこかへ行ってしまったのだろう。
そして、このランが、その後十数年にわたって我が家のお母さん猫となるのである。
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▲成長したラン 1980年頃?