夕食は、明洞のジョンウォンスンドゥブで。スンドゥブ(純豆腐鍋)の有名店だ。
普通の店と異なり、ここのスンドゥブは、釜で炊かれたご飯とスンドゥブを、海苔や野菜の入ったどんぶりに移して、
ピビンパプのように混ぜて食べる。チゲ系の料理としては、意外なほどに淡泊でまろやかな味わいだ。
明洞店は、サムギョプサルなども出しているせいか、かなり混雑していた。
豚肉スンドゥブを半分ほど食べたところで、隣のテーブルに日本人女性の二人組が座った。ガイドブックを持っており、旅行者のようだ。
やがてスンドゥブが運ばれてきた。彼女たちは食べ方がわからないらしく、3つの器を前に戸惑っている。
いつもなら店員が日本語で教えてくれるのだが、今日は忙しいのか、手が回らない。
「どうする?」
「この海苔を、鍋にかけるのかな?」
僕の心に、ある感情がわき上がった。いけない、我慢しろ、俺。そんなことをしたら、きっとひんしゅくを買うぞ。とくに、
日本人相手では、たいへんなことになる。
だが、僕は自分の感情を抑えることができなかった。
「すみません、それ、この器にご飯と鍋の中身を移して、ピビンパプみたいにして食べるんですよ。スンドゥブには、
お好みで生卵を落とすと、おいしいですよ。卵は無料ですから。」
彼女たちは、ああそうだったのか、と感謝の笑顔を浮かべ……ることは全くなく、なにやらびっくりしてこちらを見ている。
この人はいったい何人なのか。なんでいきなり話しかけてきたのか。なんでこっちの様子を観察しているのか。
この後完ぺきなニセモノを売りつけられないか。感謝すべきなのか。いっぺんにいろいろなことを考えているらしい。5秒くらい、固まっていた。
「あ、あ、どうも……」
そう答えるのが、精一杯だったようだ。
帰るときも、警戒心ありありな表情で会釈された。悪気はなかったんです。ごめんなさい。
コメント
ははは。とっても笑ってしまいました。
情景が目に浮かぶようです。
私もその場にいたら、葛藤と戦うことになるでしょう。そして話しかけずに帰りに反省。 話しかけたカゲリさんはさすがです!
「よぎよー」とアガシを呼んで、説明するよう頼んであげればよかったのかもしれないですね。でも大丈夫、きっと二人とも今ごろ「教えてもらってよかったねー」とか言ってますよ。そう祈りましょう。
ところで「日帰り」のところにも出ていたけど、この時期のカンジャンケジャンっておいしいでしょうかね?同僚が来週末に訪ソするので勧めてしまったのですが。