劇場版 じゃりン子チエ

9日、「劇場版 じゃりン子チエ」を鑑賞してきた。東京アニメワールドフェスティバル2019の、高畑勲追悼特集のひとつとして池袋シネリーブルで上映された。

「劇場版 じゃりン子チエ」が公開されたのは1981(昭和56)年、僕が小学4年生の時だ。当時の僕にとって、「じゃりン子チエ」は「ドラえもん」に続いてはまった漫画だった。当時、実家が喫茶店を営業しており、店に「漫画アクション」があったのだ。「漫画アクション」は青年誌で、性的な表現が出てくる作品も多かった。新しい号が届くたびに、いちいち親に「チエ」のページを開けてもらったものだ。何がきっかけで「チエ」にはまったのかはよく覚えていない。店に、単行本が何冊かあったからだろうか。

「劇場版〜」は、たしか店の常連だったおじさんに連れて行ってもらった。同時上映は植田まさしの「劇場版 フリテンくん」。こちらは裸の女性が出てくるシーンがあったので、相当ドキドキした。レーティングは、ポルノ映画向けくらいしかない時代だった。

「劇場版〜」は、高畑勲が「カリオストロの城」に続いて手がけたアニメーション映画だったが、当時はそんなこと知る由もない。動くチエちゃんとテツに喜びつつ、ストーリーが原作からかなりアレンジされていたことに驚いた。

例えば、猫の小鉄の登場シーン。原作では、チエが家出した母親と会っている時に、甘味処の女将に「チエちゃん、猫好きやろ」と押しつけられるのだが、劇場版では、チエの店先を通りかかった小鉄にホルモンをやるという話に改変されていた。

甘味処のシーンは劇場版にもあるのに、なぜわざわざ変えたのだろうとずっと不思議だったのだが、今回、思い当たる話があった。

原画を担当した友永和秀氏が上映後のトークセッションで語ったところでは、高畑監督はチエの歩幅に至るまで、相当綿密に、リアルに作り込んでいたという。そういえば、原作の小鉄登場シーンはリアリティという点では少し無理があった。自宅から離れた道頓堀周辺で入った甘味処で、しかも家でした母親と二人で会っているときに、野良猫を引き取ったりするだろうか。

それよりも、たまたま家の前に現れた野良猫にホルモンをやったら、そのまま居着いてしまった……という方が、ありそうな話だ。小鉄登場シーンの改変は、尺の都合などではなく、高畑監督がリアリティを追求した結果だったのかもしれない。

……まあ、猫の小鉄がホルモンを手で持ってかじるという時点で、リアリティもなにもないのだけれど。

鉄道ファンとしては、原作では「京阪に乗って金閣寺へ遊びに行く」エピソードが、「南海に乗ってみさき公園へ」に変わっていたあたりも注目だ。

それにしても、封切り時はチエちゃんの視点で見ていた作品だが、38年たって、すっかりテツとヨシ江はんの視点……いや、花井拳骨先生の視点で見ている自分がいた。やっぱり凄い作品だ。

Kindle版、とりあえず22巻までは揃えよう。