消えゆく汽車の風景(2007/05)

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新村から弘大入口に向かう途中に、寂れた踏切があったのを覚えているだろうか。龍山駅と、京義線加佐駅を結んでいた、国鉄龍山線だ。
龍山線は、もともとソウルから開城、平壌を経由して、中国国境の新義州までを結ぶ京義線として建設された。日韓併合の直前に開業したが、新村経由の新線ができると本線としての役割を終え、最近まで貨物線として細々と営業していた。

線路脇には、「汽車道」と呼ばれる焼肉屋があり、ソウルの中心で「懐かしい“汽車”を眺めながら肉を食べられる」と人気だったものだ。列車の運行が中止されて以降は、夏になると線路跡にテーブルを出し、やはり人気を集めていた。線路脇で勝手に家庭菜園を始める人もいて、どこかアジアらしい、ほっとする風景だった。

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先日久しぶりに通りかかったら、大規模な工事が始まっていた。

京義線電鉄化の工事だと言う。龍山線の区間を地下に移し、ソウルから非武装地帯に近いムン山まで、通勤電車を走らせるのだそうだ。先日金浦空港まで開業した空港鉄道A’REXも、ここを通ってソウルに乗り入れる計画だ。「汽車道」は今も盛業中だが、線路跡での焼肉は、過去のものとなった。

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「大日本帝国」が大陸に進出する大動脈として建設された龍山線。100年余りの時を経て、ソウル市民の大動脈に生まれ変わろうとしている。龍山線にとっては幸せなことかもしれない。しかし、ソウルがどこも似たような風景に変わっていくのは残念だ。

弘大入口の「歩きたい道」も、龍山線の支線の線路跡だ。きれいな遊歩道の反対側に並ぶ古い店には、かつての「線路脇の店」の趣が今も残る。韓流ドラマ「春のワルツ」に登場したお母さんのキンパプ屋も、そのひとつ。
ソウルの風景が、少しずつ失われていく。訪れるなら、今のうちだ。

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この記事は、2007年5月に執筆したものです。