ソフトバンク831SH

　以前、ドコモへのMNPを考えていると書いたが、当面ソフトバンクを使い続けることにした。

　よく調べたら、次回機種変更時に使えるポイント類が、かなりあったからだ。３月末まで機種変更しなければ、たまっているポイントやキャッシュバックを併せて、2万7000円ほど値引きをしてもらえる計算になる。

　この不景気の世の中、１円といえども無駄を省き、賢い消費生活を送らなくてはならない。

　実は、今ほしい機種がある。

　金曜日に発売された、シャープの831SHだ。

　これは、ワンセグ、おサイフケータイ、320万画素AFカメラ、世界対応、ブログ投稿機能、名刺読み取りといった、僕にとって大事な機能を網羅し、打ちやすいキーと軽快な動作速度を備えているこの春の主力商品だ。これだけの機能を備えた新機種ながら、値段は月額480円の24回払いと、かなり安い。

　僕は、前述の通り2万7000円分の権利を持っているので、トータルでは、このまま今の機種を使い続けるよりも安くあがるはずだ。ただし、4月以前に機種変更をしてしまうと、ポイントの関係で１万円近く割高になってしまう。ここは、じっと我慢の子である。

　さて、事務所へ戻る道すがら、831SHのホットモック（実際に操作できるサンプル）を触りに量販店に寄ってみた。

　噂に違わぬサクサク感に感心していると、販促なのだろう、ソフトバンクの白い服を着た、女性の店員さんが近づいて来た。「ご説明しましょうか」という声かけには、慣れている。これで心が動くことはない。

　が、その店員が発した言葉は、意外なものだった。

店員「シグマの30mmお使いなんですかー。私もなんですよ」

僕「えっ、あ、はい、そうなんですよ。写りがいいんで」
店員「そうですよね。私も、一眼レフカメラに付けっぱなしにしています」
僕「僕もです。どちらのカメラをお使いですか？」
店員「キヤノンです」

　いきなり、カメラ話。肩からぶら下げていたαに、興味を持ったらしい。顔を上げると、写真や絵が好きそうな、かわいい感じの人だ。

店員「あの……それで、単焦点とかお使いの方にはおもちゃみたいなものですが、こちらのケータイのカメラも結構いい画質で」

　そうだった、携帯の話だった。

店員「今は、どういった携帯をお使いですか」
僕「あ、905SHです。ちょっと分厚いんですけど、よくできた機種で」
店員「そうなんですか！　実は私もこの前まで905SH使ってたんですよ。いい機種ですよね。アクオスケータイの初代で、××機能とかも付いてて」

　おお、偶然にも同じ機種使いだったらしい。ちゃんと固有の機能も知っているし、話を合わせているだけではないようだ。

店員「私はこの前、××SHに機種変更したんですよ」
僕「どうですか？」
店員「905に比べて、ほんの少し動作がもたつくんですが、ワンセグの感度とか、画質とかはとても良くなりました」

　わざわざマイナスポイントを先に話すとは、ずいぶん良心的な店員である。

店員「でも、831SHは、動作速度も改善されていますよ。今なら全色ご用意できます」
僕「あ、でも、905SHの支払いがあと２カ月残っているので」
店員「そうなんですか。でも、機種変更した後の支払いは、３カ月目からですから、端末代の支払いが重なることはないですよ。××機能や××機能もありますし、ちょっと早めに機種変更されても、損はないと思うんですが」
僕「そうかなあ、そうですかねえ」
店員「あ、見てください、この"情報チャンネル"、すごく便利なんですよ！　天気予報のアイコンが、自動的にここに表示されるんです」

　店員は、僕の横にぴったりくっついて、自分のケータイを友だちに見せるような仕草で説明を続ける。

店員「もっと上位機種もありますが、お客さまでしたら、800万画素のカメラなどは必要ないと思いますし、こちらの機種なら長くお使いいただけると思いますよ」
僕「そっかあ、そうですよねぇ」

　１万円の損がなんだというのか。それだけの追加投資で、最新機種をすぐに使えて、しかもこの感じのいい店員さんの販売実績になるのだ。うむ、これも何かの縁というものだ。

僕「えと」
店員「はい」
僕「それじゃあですね、この、83r」

プルルップルルッ

　携帯が鳴った。仕事の電話だ。店を出て、取引先の人とゲラがどうの、打ち合わせがどうのといった会話を交わす。

　……我に、かえった。

僕「失礼しました。それじゃあ、この、831SHのパンフレットをいただけますか。もう少しだけ検討したいんで」
店員「あ、はい。どうぞこちらです。ぜひご検討ください」

　こうして、すんでのところで僕は機種変更を思いとどまった。いつもなら、量販店の店員のセールストークに転ぶことなどまずないのに、カメラの話をされただけでこのありさま。僕もまだまだ未熟である。

　ちなみに、この後30分くらい、ドトールコーヒーで「やっぱり買おうかなあ、あの店員さんから……」と悩んだのは、内緒である。