旌善線レールバイク

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 国鉄旌善(チョンソン)線は、江原道の甑山(チュンサン)と九切里(クジョルリ)を結ぶ行き止まりのローカル線だ。もとは運炭鉄道として建設されたが、九切里の炭坑が閉山になると需要が激減。2000年から廃止を前提とした協議が始まり、さらに2002年、台風によって鉄橋が流失するなど、その運命は風前の灯火と思われた。

 そんな旌善線を救ったのは、官民一体となった、地元住民たちのねばり強い活動だ。彼らはやみくもに廃止反対を叫ぶのではなく、観光資源として鉄道を生かそうと、さまざまなアイディアを出した。そうして打ち出されたのが、旌善線の観光鉄道化と、アウラジ-九切里間での観光用軌道自転車「レールバイク」事業だ。

 5月15日の午後、2年ぶりに旌善線を訪れた。

 現在、旌善線には、甑山-アウラジ間に1日3往復の遊覧列車が走っている。ディーゼル機関車に客車が一両つながれただけのミニ列車だが、車内はカフェ風の造りになっており明るい雰囲気。民謡・旌善アリランの里として知られる旌善郡には、鍾乳洞やハイキングコース、五日市などの観光資源が多く、今日も平日というのに立ち客も出るほどの盛況ぶりだ。列車からの眺めは、典型的な韓国の田舎風景だが、田園あり、渓谷ありとなかなか飽きさせない。終点までは、約50分ほどの汽車旅だ。

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 列車の終点・アウラジ駅に到着したのは14時55分。この先、九切里までの一駅7.2kmが、レールバイクの区間となる。しばらく駅前でうろうろしていると、北側からレールバイクの列が近づいてきた。思ったよりもた数が多く、50台くらいあるようだ。お客はカップル、家族連れなど多彩で、みな楽しそう。レールバイクが、旌善の人気観光施設として定着していることを伺わせた。

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 乗車を終えた人たちとともに送迎バスに乗り、スタート地点である九切里駅へ。

 九切里駅は、終着駅だった頃の雰囲気を残しつつ、実に明るい雰囲気になっていた。ヘンなバッタの形をしたカフェ(客車改造らしい)を作ったほかは、元からある施設を流用している。なるべく低予算で整備し、かつ旌善線の雰囲気を大切にするということのようだ。平日というのに、大勢の観光客でにぎわっており、4人用のバイクはすでに受付を終了していた。僕は、送迎バスで知り合ったおじさんと2人用に乗ることにする。値段は、1台1万5000W。

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九切里駅ホーム(左:2006年5月15日、右:2004年9月14日)

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九切里駅舎(左:2006年5月15日、右:2004年9月14日)

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 いよいよ出発。アウラジから、作業車に牽引されてやって来たレールバイクは、一見ゴーカートのような雰囲気。重そうだったが、いざこいでみるとこれが思いのほか軽い。普通の自転車よりも、むしろ力がいらないくらいで、ちょっとこぎ出せば、するすると軽やかに動いてくれる。シートベルトを締め、チケットにハサミを入れてもらって(!)出発進行。九切里駅の構内を出ると、すぐに松川(ソンチョン)の渓流と併走して緩やかに下る。

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 かたん、かたん、かたん……

 レールの音を聞きながらこぐうちに、なんだかわくわくしてきた。

 こ、これは……

「おもしろい!!!」

 きれいに整備されたレールの上を、自転車で軽やかに走ることのなんと気持ちいいことか。山や渓谷の空気をいっぱいに吸い込み、風景をたっぷり楽しむことができる。コースは終始緩やかに下っており、動きだしさえすれば、後は慣性で進んでくれるのもいい。なるほど、だから九切里起点なのか。

 沿線には、3カ所のトンネルがある。トンネルの中はひんやりと涼しい。シンプルかつカラフルなライトアップも幻想的だ。

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 レールバイクは出発時間が決まっており、必ず50台が連なって走る。だから、スピードを出すことはできず、だいたい時速10kmくらい。乗車時間は40~50分だが、登り勾配は一切ないので疲れることは全くない。また、途中に2カ所休憩所があり、バイクを降りて松川の眺めを楽しんだり、売店で飲み物を買うこともできる。

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 感心したのは、道路と交差する踏切に必ず監視員がおり、僕らが通過するときにはきちんと車を止め、警報機を鳴らしてくれること。「カン、カン」と鳴る踏切を、レールバイクで通過することの楽しいこと楽しいこと。小学生の頃、家から学校までの道を線路に見立てて、自転車で電車ごっこをしたっけ。

 渓流だった松川はやがて広い清流となり、東から流れてきたコルジ川と合流する。二つの川が一つになる(オウロジヌン)場所、それがアウラジだ。レールバイクは大きな橋を渡り、終点のアウラジ駅に到着。

 もっと乗っていたかったが、しょうがない。時刻は夕方6時。おじさんの紹介で、アウラジ駅近くの民宿に泊荷物を下ろした。

 旌善線は、鉄道だけでなく旅が好きな人すべてにおすすめできるすばらしいスポットだ。やはり災害によって不通になり、廃止が不可避とされている高千穂鉄道も、こんなふうに生かせたら良いのになあ。

追伸:と思ったら、北海道の美幸線跡が、似たような施設「トロッコ王国」になっているそうだ。こちらはエンジン付きとのこと。そういえば、ずいぶん昔に何かの本で読んだような気もするが、今も元気に運営しているとはうれしいことだ。そのうち行ってみよう。

コメント

  1. たごしぽ より:

    どうも、今回は、たごしぽ(笑)です。
    いやー、これ、おもしろそうですね。
    子ども連れて乗りに行きたいな。
     
    また、かげりさんの写真がいいんだもん、
    背景の軽く流れている具合とか、いい雰囲気。
    絵になるし、目新しいし、TVの旅行番組が飛びつきそう。

  2. かんりにん より:

    たごしぽさん、はじめまして(笑)。
    これ、面白いっすよ。
    旅行番組、ぜひぜひ取り上げてほしいものです。
    日本では、北海道の旧白糠線上茶路駅跡に小さい
    のがあって、故宮脇俊三さんも著作で取り上げて
    いましたが、現在は廃墟となり、レールも最近
    盗まれてしまったようです。
    こんな本格的なのが、日本にもあったらいいんですが。
    ちなみに、写真は12mmの超広角レンズでてきとー
    に撮っただけです。12mmに助けられたって感じですね。