韓国スキージャンプを訪ねて4

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▲テレビ局の中継車も集まった
大会当日、30日。台風の接近が伝えられていたが、大丈夫。きれいな青空だ。クラブハウス前には、KBS、MBCなどテレビの中継車が集まった。夜のスポーツニュースで、初のワールドカップ大会を報道するのだという。
「これで、韓国の人に少しでもジャンプを知ってもらえたらと思います」
ムンさんが、神妙な顔をして言った。
簡単に試合のルールを説明しよう。今回出場する選手は44人。11人ずつ4つのグループに分かれ、ファーストラウンド(1回目)を行う。順位は飛距離点と飛形点の合計で争われ、各グループの上位6人、24人がファイナルラウンド(2回目)に進める。韓国勢の目標は、このファイナルラウンドに進出することだ。
練習ラウンドが始まろうとする頃、たくさんの子供たちが集まってきた。100人くらいはいるだろうか。中学生や親子連れなどもぞろぞろやってくる。ジャンプファンではなく、地元の住民だという。小学生は学校全体で来たそうだ。おらが町に、世界のトップ選手が集まってくる。見に行かなきゃ…。そういうことらしい。子供たちがキャーキャー言ってスタンド周辺を走り回り、会場は一気ににぎやかになった。
テストジャンパー(競技には参加せず施設・天候の状況をチェックするジャンパー)、がスタートする。観客は、ほぼ全員ジャンプ観戦は初めてだ。
「おおおおお~!!」
ジャンパーが空中に飛び出した瞬間、数百人とは思えないほどのどよめきが広がり、着地と同時に拍手と歓声に変わった。そして、ゼッケン1番、日本の千葉勝利が113m。悲鳴とも歓声ともつかない声があがる。初めて生でジャンプを見た時の衝撃は、大変なものだ。人間が、遙か彼方から空を飛んでくるのだ。
試合は、パーティで知り合った、大韓スキー連盟のジュ・ユンジョンさんと観戦した。韓国チームのお姉さんだ。関係者という雰囲気は全然なく、ドイツのエース、マルティン・シュミットのサインを見せびらかして喜んでいる。
「へー、ジュさん、シュミットのファンなんですか?」
「ううん、さっき名前を知ったの。かっこいいわ。」
と、いうわけで、試合中、僕はつたない英語で一人一人の選手、世界のジャンプ事情を彼女に説明することになった。と、ヤンネ・アホネンが一本目の競技を行うためにこちらへ来る。
「かげり! (世界ランキングトップを示す)ゴールドゼッケンよ!」
見ると、ジュさんはどこに持っていたのか、すでに色紙とサインペンを持ってスタンバイしている。リフト乗り場の前に仁王立ちのジュさん。まさか…。
「アホネンさん! サインください!!」
運営スタッフが、なんてことしてるんだ!? 今、選手は競技中だから、話しかけちゃだめっだって…。アホネンは、苦笑いしながらサインに応じていた。すると、スタンドからどんどん子どもたちが集まってくる。
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▲ヤンネ・アホネンにサインをねだるユンジョン
気がつけば、ジュさんが「ほら、あの人が世界チャンピオンよ」などと、子供達にけしかけているではないか。子どもたちに囲まれ、動けなくなるアホネン。しかし、チッと舌打ちをしつつ、彼は快く?サインに応じていた。アホネン、ヘンな名前だけどいい人だ。しかし、今は試合中。彼はリフトへ向かわなくてはならなかった。残念がる子供たち。ま、しょうがない。
その時である。子供の一人と目があった。イヤーな予感がする。子供たちがゾロゾロ僕の方へ駆け寄ってくる。ますますイヤーな予感がする。ニコニコ笑う子供たち。この僕を、どうしようと言うのか。
「サイン、ジュセヨー(サインちょうだい)」
外人であれば誰でもよかったらしい。かくして、僕が子供たちのサイン責めに遭うのであった。
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▲サインをもらって大喜びの子どもたち