新宿西口にて

M0091

 今日の夕方、新宿西口明治安田生命前でのことだ。

「Excuse me, can you speak English?」

 振り返ると、20歳そこそこの青年が立っていた。

 ……僕、外国人と思われた? キャッチセールス?

 一瞬いろいろ考えたが、すぐに気づいた。この人が外国人なんだな。

「Little… Where are you from?」

 相手は、面食らった顔をした。「あんまり…」はともかく、「どこから来たんですか」は予想外の質問だったようだ。

「……!? …… I came from Korea….」

 あ、やっぱり。

「韓国の方でしたか。では、韓国語でどうぞ」

 当然、相手は驚く。

「あ、韓国の方ですか?」
「いえ、僕は日本人ですが」
「(略)すみませんが、都庁へ行きたいのですが、どう行けば良いでしょうか」

 勝った。ここは明治安田生命ビルの前。都庁なんてすぐそこだ。

「ああ、そうですか。近いですよ。まず、地下に降りてですね。そちらへまっすぐ行けば左に……」
「地下に降りるんですか?」
「あ、地下と言ってもですね、正確には地下ではなく」
「はあ?」
「そこを降りると地下通路があるんですが、まっすぐ進むと、1階になります」
「階段を上るんですか」
「いや、そうではなくてですね……」

 西新宿の地形は、日本語でも説明が難しい。作戦を変える。

「それではですね、地下には降りずに、ここをまっすぐ進んでください」
「まっすぐですね」
「しばらくまっすぐ行くとですね……」

 ……"突き当たり"ってなんて言うんだっけ。

「三叉路があるので、階段を下ります」
「やっぱり地下に降りるんですか」
「そうではなくて、階段を下りるとそこが1階でして……」
「……?」

 沈黙が流れた。

「えーと、えーと、まっすぐ行くとですね…… そうだ、ホテルがあります」
「ホテルですか?」
「そうです。ホテルです。左側に、京王プラジャホテルがあります」

 だんだん、言語がジャック&ベティになっていく。

「そこに、入ります」
「中に入るんですか?」
「そうです。ホテルの後ろに都庁があります」
「……」
「ホテルの後ろに行きます。そこが都庁です」

 初級会話テスト、不合格。

 後で思った。あれが女性だったら、きっと僕は「では連れて行ってあげましょう」と言っていたのではないか。そして、都庁に着くと彼氏が現れ、ありがとうございましたさようなら、というパターン。

 えー、来週から韓国行って、言葉を鍛えてきます。