洗濯男

 洗濯は、コインランドリーを利用している。
 アパートの部屋にも、洗濯機がないわけではないのだが、親父の部屋の奥にある。洗濯物を持って、親父の部屋にずかずか出入りするのは、ぞっとしない。

 ここ最近の長雨で着る物がなくなり、朝からコインランドリーに行ってきた。

 アンダーシャツはどんどん着替えるたちなので、とにかく半端ではない量の洗濯物だ。大型の洗濯機で洗い、その間向かいの喫茶店で朝食をとる。こういう生活パターンも、悪くない。今までは、終電で帰宅した後、家から少し離れた24時間営業のコインランドリーを使っていたのだ。洗濯終了が午前4時ということもしばしばだった。

 出勤していくサラリーマンたちとすれ違いながら、洗濯物を抱えて歩いていくというのが微妙な気分だが、今更そんなことを言っても始まらない。少なくとも、ちゃんと朝起きるのは、気分がいい。

 洗濯が終わると、ジーンズやナイロン系といったものを家に持ち帰り、残りは乾燥機にかける。

 ようやく乾燥も終わり、洗濯の済んだ大量の衣類をたたむ。僕は、自宅では整理整とんのできない人間なので、このタイミングでたたんでおかないと、ぐちゃぐちゃのまま部屋に突っ込むことになる。あまり上手にはたためないのだが、靴下などは、神経衰弱遊びのようで楽しい。

「几帳面な方ですねえ……」

 たたみ終わるころ、後ろから声がした。見ると、50代くらいのおばさんだ。

「いやあ、私なんて、こんな乾燥機に詰め込んじゃって……はずかしいくらいですよ」

 洗濯で褒められたことなんてないので、妙な気分だ。いえいえ、たたむフリをしているだけで、本当はしわだらけのままなんですよ。

「そんなことないですよ。感心だわー。留学生の方ですか?」

 僕があまりにも几帳面なので、日本人に見えなかったようだ。

「あら、日本の方でしたか。失礼しました。なにか、こう、理系の方じゃないですか。そんな風に見えますけど」

 ……まあ、仕事でパソコン使っているから、理系と言えなくもないかもしれないなんてことはない。

「そうですか、コンピューターを。そうすると、あれですか。IT関係の……。ねえ、最近はIT凄いですよねえ。なんとかヒルズに住んでる人とか……。あなたも、そういうお仕事の方ですか」

 ヒルズ族が、朝から中野のコインランドリーで洗濯はしないと思うのだが……。

 おばちゃんの問いかけは、ことごとく外れていた。そのたびに「違います」と言うのが心苦しい。「ニートの方?」と訊かれないかひやひやしたが、それはなかった。よかったよかった。

 やっぱり、洗濯は、深夜に限る。

コメント

  1. まなみ より:

    こんにちは。
    相変わらずお忙しそうですね。
    コインランドリーは使ったことないけど
    安全で清潔なとこですか?
    大物があるときに、クリーニングにするか
    コインランドリーにするか時々迷います。
    >「そんなことないですよ。感心だわー。留学生の方ですか?」
    > 僕があまりにも几帳面なので、日本人に見えなかったようだ。
    ・・・突っ込んで欲しいでしょ?
    突っ込んであげませーん。

  2. かんりにん より:

    いやいや、ここはなま暖かくスルーするのが、お約束かと。
    コインランドリ一、店にもよるけど、不潔と思ったことはないですね。性格にもよるかな?