日本人に見えない風貌は、海外、特にアジアを旅するときは便利である。「日本人をねらった犯罪」に遭遇する可能性が、低いからだ。
中国でも、しょっちゅう日本人以外の民族に間違われる。多いのは、「広東の方ですか」。北京語ができない、どうも南のほうの人のようだ、特に裕福そうにも見えない、といった要素から、そう考えるらしい。
チベットでも、さんざん現地人に間違われた。ほとんど外国人しか来ないはずのネットカフェで、日本語堪能なオーナーにチベット語で話しかけられた時は、さすがに複雑な気持ちになったものだ。
チベット仏教の聖地、ポタラ宮。この宮殿の中には、無数の部屋があり、それぞれにありがたい仏像や玉座が安置されている。
その日、僕はガイドのDくんと二人で、ポタラ宮内を見学していた。
ポタラ宮は、原則として内部での撮影は禁止。時間もないので、駆け足で一通りの見学コースをたどっていた。
ある仏像が安置された部屋には、狭い空間に参拝に来た人たちが並んでいる。僕らは、参拝するわけではないので、簡単な説明を聞きながら先を急ぐ。その時だ。突然、列の中から日本語が聞こえた。
「まったく、こっちの人は順番を守らないねえ」
「本当にねえ、みんな並んでいるのにねえ……」
「いやあ、これが中国ですよ」
……?
振り返ると、列に並んでいた日本人観光客の一団と目があった。間違いなく、僕を見ている。
ボクノコトデスカ。
一瞬の沈黙。僕は、にっと笑うと、前を向いてDくんに大声で言った。
「Dくん、この列は、仏像にお参りする人の列なんですよねえ! ですよね! じゃあ、僕らは急ぎますから、このまま外にでましょう!」
Dくんが、今更何を言い出すんだ、という表情でこちらを見る。僕は、構わず続けた。
「いやあ、時間がないですもんねえ、残念だなあ、アハハハハハ」
最後の笑いは、意味不明であった。
出口の近くにも、日本人が並んでいた。
「はい、どうぞ、いえ、私らただ並んでみているだけですから」
年配のおじさんは、にっこりと……あるいは、ニヤリと笑って、通してくれた。
コメント
かっこいい! 私もその手使おうかな。
な、なにがかっこいいのかしら……?(^^)