高級ホテルへの忘れもの

 昨日チェックアウトしたコエックスインターコンチネンタルホテルを、再び訪ねた。

「お忘れものですか。お部屋の番号はわかりますでしょうか」

 そうなのだ。昨日チェックアウトした際、部屋に忘れ物をしてしまった。昨日の夕方の時点で気がついていたのだが、どこに置いたかも覚えているし、特1級ホテルならなくなることはまずない。

「申し訳ございません。お泊まりのお部屋には、とくに忘れ物の届はないようですが……。ハウスキーピングの担当者に問い合わせてみます。もう少し詳しく、お品物について教えていただけますか」

 ちょっと恥ずかしかったが、その品物の内容を説明した。

「冷蔵庫に置かれたのですね。わかりました。お部屋の担当者に直接確認しますので、お待ちいただけますか」

 それから、10分ほどロビーで待っていた。
 気配を感じて顔を上げると、初老の男性がスタッフらしき人を伴って近づいてくる。

「クリハラさま、私、当ホテルのハウスキーピング部門のマネージャーで、××と申します。このたびは、大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。大変貴重なものをお探しとのことで……」

 僕はびっくりして、説明した。

「あ、いえ、あの、全然貴重なものではないんですが、友人へのお土産として日本で買ってきたものでして」

「日本の伝統食品とうかがいましたが……?」

「いやまあ、伝統食品といえば、そう言えなくもありませんが」

「大変申し訳ございません。お部屋の担当者が先ほど退勤してしまい、まだ連絡が取れておりません。恐れ入りますが、もう一度お品物の内容や形などを詳しく教えていただけますでしょうか。万が一の場合は、当ホテルで責任をもって弁償させていただきます」

 僕は、かなり躊躇したが、もう一度説明することにした。

「あのですね……」

「はい」

「納豆、です」

「ナット……ですか?」

「なっとう、です。」

「それは、どのようなものでしょうか?」

「えーと、韓国のチョングッチャンによく似た大豆食品でして、黄色い袋に、3つ入っています」

気がつくと、心配そうな顔をしたスタッフが4、5人、僕のほうを見守っている。

「黄色い袋ですか」

「はい、日本語のカタカナで、ドンキホーテ、と書かれています。それから……」

「わかりました。君、もう一度確認してきたまえ。日本語とペンギンの絵が描かれた黄色いビニール袋だ」

 そう、僕が忘れたのは、ドンキホーテ中野店で買った、「金のつぶにおわなっとう3個パック」だったのだ。

 それから5分ほどして、立派な制服を着たホテルマンが、ドンキホーテの袋を手に笑顔で戻ってきた。

「お客さま! こちらでございますね!?」

 きっと、「68円」ってタグも見られちゃったんだろうなあ。当分、コエックスインターコンチには行けないな。

コメント

  1. もっこしぽ より:

    みんな固まっているようなので、とりあえずワタシが笑ってさしあげましょう。わはは(笑)。
    しかし、欧米の高級ホテルじゃなくてチョングッチャンのある韓国だから、まだよかったじゃないですか。
    まぁ、納豆にまつわる事件だけに、これが糸を引かないことを、おっと、後を引かないことを祈るのみです。