永豊文庫で会った老紳士

 夜、永豊文庫の日本書籍売場で立ち読みしていたときのこと。
「あの、日本の方ですか」
 振り返ると、70代くらいのこざっぱりした老紳士が立っていた。ほぼ完ぺきな日本語だ。
「ちょっとお尋ねしたいのですが……」
 日本語の単語についての質問だった。僕も聞いたことのない単語で、すみません、わかりませんと答える。言葉を生業とする者として、ちょっと自尊心が傷ついた。
 質問はそれだけだったが、老紳士の話は終わりではなかった。
紳士「あなた、韓国へはどうして。ああ、韓国語を習っていらっしゃるんですか。最近、日本では韓国が流行しているそうですね。私の若い頃には考えられなかったことだ。あの、ペーサマとかいう……」
僕「ヨンさまです……」
紳「ああ、そうそう。ヨンサマ。しかしおかしいですなあ。どうして、日本であれほど韓国の役者が人気になるのか……。」
僕「主に、三十~四十代の女性が好んでいるようですよ。日本ではあまり見られなくなった男性像が良いとか……」
紳「私も日本に何度も行きましたが、日本は、結婚すると男の人はみんな妻を ”おい、おまえ” と呼び、女の人は敬語で ”はい、旦那様” と言いますからねぇ。」
僕「え」
紳「韓国では考えられんことです。韓国では、女性が尊重されますから。ご存じですか。韓国では、結婚しても女性の名字が変わらんのです。」
僕「あの、でもそれは」
紳「結婚したからと、女性に対して敬語を使わなくなる人は、韓国には一人もいません。そんなことをしたら、たちまち社会で立場を失います。」
僕「……」
紳「日本の女性は、 “おい、おまえ、××しろ” “はい、旦那さま、ただいま” という生活に慣れているから、女性を大事にする韓国の男性に憧れるんでしょうな」
僕「……さ、さいきんのわかいふうふはそうではないかも……」
紳「だから、三十、四十という世代の女性に特に人気なわけですな。ふうむ。いや、いい話を伺いました。それでは失礼します。勉強頑張ってください。」
 老紳士は、満足そうに去っていった。

コメント

  1. きよみん より:

    ブログのアドレスを変えたので、久しぶりにやって来ました。ブログアドレスは「kiyominstyle.com」になりました。
    老紳士の話を聞くと、未だにそのようなイメージが根付いているということですよね。その国のことを知るためには固定観念を持たないようにすることって大事だなって、仕事で韓日の板挟みに合うことがよくあるきよみんでした。

  2. うたこ より:

    こんばんは、こちらに書き込みするのは初めてです。
    両国のご老人がたの固定観念の強さというものが垣間見られるエピソードですね。ちょっと笑いました。しかしご老人の韓国人評にも首をかしげてしまうなぁ…。
    今の日本に来てみたら、驚いて腰抜かしちゃうかもしれないですね。

  3. grund1712 より:

    そのおじいさんは何か韓国を自慢したかったでしょうね。事実だとは言えないんですけど、僕は逆に韓国のお年寄がそのような話をしたことに感心しました。