緩行市外バス

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▲春川行緩行バス運転手、オ・セム氏

フェンゲから春川へは、東海岸の江陵から来る市外バスを利用する。江陵-春川間は多くのバスが走っているが、ほとんどが「直通」と呼ばれるノンストップ便だ。フェンゲのような小さな町に丁寧に停まる「緩行」は、1日数本しかない。高速道路ではなく、一般道路を走る区間が多いので、韓国の田舎の風景を満喫できるのがいい。

例によってバスを写真に撮っていると、運転手が「どうして写真を撮るのか」と不機嫌そうに訊いてくる。時々、抜き打ちで役所か何かの実態調査があるらしく、韓国のバス運転手は総じてナーバスだ。いえ、単に旅行の記念に、と答えると、無言で、どうしてわざわざバスなんかを、という顔をした。

バスは、農家の連なる細い旧街道をくねるように走る。牛が見えたり、ばあさまがひなたぼっこをしていたり。

小さな町のターミナルに着いた。運転手に停車時間を尋ねると、「もしかして、日本の人?」。そうです、と答えると、彼は急に笑顔になってしゃべり始めた。

「学生さん? じゃあ、空いてるから前に座りなさいよ。その方が、勉強になるでしょう」

どういう意味だ? と思いながら、いちばん前の座席に移ると、そこからは運転手のトークショーだった。最近、日本人の客をよく乗せる。自分も日本語を勉強したいが、機会がない。以前はトラックの運転手をしていたが、バスの運転手に憧れて転職した。でも、同じ路線ばかり往復するので、そろそろ飽きてきた。自分が日本に行ったら、日本のバス会社で勉強できるだろうか。……云々。

まあ、バスの運転手が運転中に携帯で電話をするような国だから、運転しながら乗客に話しかけてくるくらいは良い。だが、文末ごとに、同意を求めるようにこっちを見るのはやめてほしい。外国人と話ができるのが、楽しくてしょうがないようだ。

「緩行バスはあちこち停まりながら行くから、イライラするでしょう」
「いえ、面白いですよ。普段は来られない小さな町を見られるし……。時間があったら、こういうところで降りて散歩したいですね」
「へえ、そんなもんですか。何が面白いのかねぇ……」

韓国には、「各駅停車路線バスの旅」という番組はなかったのかな。韓国のローカルバスの旅なんて、なかなか魅力的だと思うのだが。結局、運転手のトークショーは2時間続き、やがて春川に到着した。いつも無愛想に見える見えるバスの運転手も、本当は陽気な韓国人なのだと気づいた次第。