廃道ナイト!!!2010早春

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 ずいぶん前の話になってしまったけど、先日の土曜日、東京カルチャーカルチャーで開催された「廃道ナイト!!!2010早春」に参加してきた。今回は、お客としての参加だ。

 「廃道ナイト」は、文字通り今は人の往来がなくなった、「廃道」を愛するトークイベント。廃道めぐりという趣味は、いわゆる廃墟・廃線跡といったジャンルに近い。極めて真面目な近代産業遺産研究と、背筋が冷たくなるほどに危険極まりない探検譚という二つの顔があり、なんとも言えない味わいを出している。

 出演は、ヨッキれんこと平沼義之氏と、nagajisこと永冨謙氏。二人は、「山さ行がねか」(ヨッキれん氏)、「日本の廃道」(nagajis氏)という、一部では大変な人気を誇る廃道の探検・研究サイトの運営者。廃道のほかに、廃線跡も扱っていることもあり、僕も3年くらい前から、時々レポートを読んでいた。そのたびに、「この人はよく無事で生きていられるなあ」と思ったものだ。どれほど過激な探索をしているかは、直接サイトを見てみてほしい。

 そのヨッキれん氏が、2008年暮れに、nagajis氏と共にリリースしたムック本が、「廃道本」(実業之日本社)だ。この本を企画した編集者は、僕の会社員時代の先輩、磯部さん。世の中、狭いのだ。

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 さて、イベントは19時にスタート。「伊豆の明治隧道」、「道路の残念な話」「個別トーク」の三部構成だ。サブタイトルがだんだん適当になっていくのは、たぶん気のせいだろう。

 会場は、完全に満席。当日券も出ないほどの盛況だ。

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 僕は、会場の隅っこのほうで、限定カクテル「水没隧道」をいただきながら、楽しむことにする。

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 「伊豆の明治隧道」は、伊豆半島に多数現存する明治時代に建設された隧道(トンネル)を考察・探検するパート。隧道の意匠の変遷など、思いのほか真面目な考察が行われており、興味深かった。もっとも、現地調査のレポートは、相変わらずのヨッキれん氏だったが……。

 廃隧道の入口が土嚢で封鎖されていたら、普通は「中の状態がわからず残念」で終わるよなあ。

 「道路の残念な話」は、文字通り道路を探索していて「残念」に思う話題を集めたライトトーク。「個別トーク」の前半は、「山行が」の重要キャラクター?である、ミランダ氏の歩み。秋田弁を話すミランダ氏はとても魅力的な方だったが、ぼくとつとした口調で語られるエピソードは、やはり大変過激だった。

 高波がしぶきをあげる岩場で、目的の道が水没していたら、普通はあきらめるよね。

 さて、今回のイベントで大変素晴らしかったのは、最後にnagajis氏が披露した、「土木技師・村田鶴」についての研究レポートだ。

 滋賀県の近代化遺産に登録された、琵琶湖周辺に残る数々の旧隧道群。これらの多くは、村田鶴という一人の土木技師が設計されたと言われる。しかし、村田がどのような経歴を持つ人物なのかは、明らかになっていない。そこで、nagajis氏は、遺された資料を元に、この人物の実像を解き明かそうとした。

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 ↑村田鶴の研究。大正時代の、埼玉県と滋賀県を舞台にした土木技手の移籍を追うnagajis氏。「奇妙なことに、健康上の理由で埼玉県を退職し、翌日には滋賀県に採用されている技手がこの時期複数存在することがわかったんです」

 大正時代の人事録や工手学校(現在の工学院大学)の卒業者名簿など、極めて限られた資料を読み解き、根気と想像力を最大限に活用して、一人の公務員に過ぎない100年前の人物に迫る。その過程が、すでにドラマになっていた。

 全体としては、廃道ナイトというより隧道ナイトだった気がするが、世の中には、極端かつ優れた趣味の研究者がいることを知った。僕の「新幹線の車窓ナイト」とは全く違う、過激で真面目なトークイベント。やはり、カルカルは面白い。

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ヨッキれんこと、平沼義之氏。このように一見さわやかで、たいへん礼儀正しい青年だが、その行動力はとてつもない。

コメント

  1. kazu murata より:

    村田 鶴は私の父です。滋賀県から千葉市の土木課長を
    経て戦後千葉倉庫株式会社を設立し100歳近い天寿を全うしております。
    父の事績についてはもっといろいろありますのでお尋ねください

  2. かんりにん より:

    村田さん、コメントありがとうございます。
    スパムが増えていて、見逃しておりました。申し訳ありません。
    平沼義之氏と永冨謙氏には連絡されましたでしょうか。もしまだであればご紹介します。
    ぜひメールフォームからご連絡ください。