年末に飛び込んできた、「秘境駅」の写真集企画。
年が明けると、企画はとんとん拍子に進んだ。取り上げる秘境駅は、牛山隆信さんがこれまでに訪問した秘境駅の中からセレクト。牛山さんが思い描く各駅の魅力を伝える写真を、僕と牛山さんで新規に取材して撮り下ろす。写真のキャプションや、コラムなどテキスト類は原則として牛山さんが執筆する。これが基本方針だ。
まもなく、飯田線が最初の取材地に決まった。基本的に撮影は僕が行うものの、意思の疎通を図り、企画のコンセンサスを作るために、編集の江守さん、著者の牛山さんも今回は同行することになった。
手軽な企画では、コンセプトとページ構成、取材物件、締切などを決めたら、後は取材者・著者にお任せ、というケースも多い。だがこの企画では、「どんな本を作るのか」「何を取材し、そこから何を表現するのか」といったコンセプトを、制作に携わる全ての人が共有できるよう最後まで配慮された。「新幹線ガール」、「ローカル線ガールズ」、「すごい駅!」といったヒット企画は、こうした丁寧な制作姿勢から生み出されていたのだ。
さて、取材日程は、まず牛山さんが素案を作り、それに対して僕が取材の都合に合わせて調整する……という方法が採られた。
まもなく牛山さんから送られてきた、2つのプラン。
実に、細かい。
どちらも、取材対象の5つの駅を1日でばっちりまわってしまうプランだった。片方の案は、同じ区間を行ったり来たりすることがなく、「行きを東海道、帰りを中央線経由にすれば、片道きっぷになり○○○○円安くなります」とまで書いてあった。練りに練られたプランは、さすが牛山さんだ。
普通の汽車旅として考えれば実に魅力的で、帰りに飯田や伊那に住む留学時代の友だちに会えば、充実した旅になりそうだ。牛山さんのプランを見て、僕はすぐにも旅立ちたくなった。
しかし、これは取材だ。効率は良くても、各駅の滞在時間が1時間前後では短すぎる。単純に駅舎とホームを撮るだけならそれでも可能だが、今回の企画は、駅の置かれた周辺環境や、施設のディテールなども丁寧に撮影したい。
そこで、各駅の滞在時間を原則2時間以上、できればさらに時間を取ることにした。そして牛山さんの思い描く写真が撮れるよう、光の具合まで考慮して調整し、現地の宿泊を含んだプランに作り直した。
日の出日の入り時間、駅と山の位置関係、取材中の太陽の位置まで配慮して組んだ完ぺきな取材プランだ。だが、そうした僕の努力は、大いなる法則の前では、簡単に無に帰するのだった。
もうお分かりだろう。
取材初日のJR飯田線起点豊橋駅。
……土砂降りだった。
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(つづく、はず)