大都市近郊区間大回り乗車……?

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午後は、昔と変わらぬ力餅を売っているあの駅へ。

うつくしまの駅から、普通列車に乗っていると、車掌が検札に来た。と、後ろの方でなにやら乗客と軽くもめている。

「お客さま、どちらまで行かれますか?」
「ああ、有楽町から乗ってね、大回り中です」

……大回り中?

「大回り中とは……」
「うん、この切符でね、小牛田に出て、また東京に戻る。途中で降りなければいいんでしょ?」

うーむ。

大回り乗車とは、首都圏などの、大都市近郊区間と呼ばれるエリア(首都圏の電車に貼ってある路線図の範囲)内であれば、実際の乗車経路にかかわらず、最短の経路で運賃を計算するという特例だ。たとえば新宿から上野へ行くには、御茶ノ水・秋葉原で乗り換えるルートと、神田で乗り換えるルート、そして池袋経由で山手線を乗り通すルートがあるが、いちいち経路通りに運賃を計算していては面倒なので、最短経路である秋葉原経由で計算する。これを逆手にとれば、有楽町から横浜、八王子、川越、大宮、上野とまわって東京で降りた場合でも、運賃は最短経路の130円でよいということになる。これが、大都市近郊区間の「大回り乗車」という遊びだ。

車掌は、乗務員室から時刻表を持ってきた。

「お客様、こちらをご覧になってください。大都市近郊区間の特例というのは、この範囲内でお乗りになる場合の特例で、そこから出てしまうとお乗りになった経路通りに運賃が必要になるんです」……

どうやら、その乗客は有楽町から130円区間のきっぷを持って、山形へ向かうこの列車に乗ってしまったらしい。最近鉄道ブームとやらで、「大回り乗車」もあちこちのメディアで紹介されているが、やはり、よく理解せずに真似をして間違えてしまう人がいるようだ。

まもなく、僕の目的地の駅に着いたので、この乗客がどうなったかはわからない。誤乗扱いとして無料で帰ってもらうこともできるが、味を占められては困る。さて、どのように対応したのだろう。

あ、そうそう、写真は明治27年創業の、あの力餅。相変わらず、柔らかい餅とすっきりしたこしあんがおいしかった。