マニュアル敬語

 NHKのクローズアップ現代。今日のテーマは「日本人と敬語」だった。

 「弟の所に伺います」といった敬語の誤用や、「よろしかったでしょうか」といったマニュアル敬語の話だ。

 僕も、マニュアル敬語は以前から気になっている。

「よろしかったでしょうか」は、英語の丁寧表現"Would you~/Could you~"を直訳したという説があるそうだ。井上ひさしは、日本人が好む婉曲表現のひとつと指摘していたが、どうだろう。

 考えてみた。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」と尋ねると、注文はまだ確定していない、不安定なニュアンスがある。責任ある判断を、客にゆだねている印象だ。「客の発言がよく聞き取れなかったのでもう一度訊いている」という感じもするかもしれない。

 一方、「ご注文は以上でよろしかったですか」と言えば、すでに確定したことについて、念を押しているニュアンスが強くなる。こうすれば、「注文はしっかり聞き取ったが、念のために復唱している」という印象になり、安定感が増す。客も安心するというわけだ。

 発想としては婉曲なんだけど、微妙に違う。所謂婉曲表現にするなら、こんな感じ。

「ご注文は、この辺りでよろしいかと思うのですが、あの……」

 これじゃ、クビだな。

「こちらコーヒーになります」
 じゃあ、今は何なんだよ、といつも訊きたくなるこの言葉。これは間違いなく婉曲だ。「コーヒーである」と断言するのを避けて、「こちらはコーヒー、ということになりました」と、他の誰かが決定したような言い回しにしているのだろう。

「1000円からお預かりします」
 これは、正直僕はあまり違和感を感じない。お釣りがある場合に、「(代金をこの)1000円からお預かりします」という意味だ。だから、代金が1000円ちょうどなのに、「1000円からお預かりします」と言われると、かなり違和感を感じる。近所の中華料理屋では、中国人の店員に先輩アルバイトがはっきりそう説明していた。もう10年くらい接客業をしていないので、この言葉を使う機会も減ったが……。

 敬語表現が、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類から、尊敬語・謙譲語1・謙譲語2(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に増えていたとは知らなかった。ますます、使いこなせなくなると思うのだが。外国人への教授法も変わるのだろうか。

 そうそう、「タメ口」の美化語ってないかなあ。

「おタメ口」

 ……ダメだ。