硫黄島からの手紙

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 クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」。

 いろいろなところで、「この映画が外国人によって作られたことが残念」と言われていた。

 僕も、最初はそうだったが、考えるうちにだんだん変わってきた。というのも、日本人があの戦争を題材にすると、あからさまな反戦映画に仕上がるか、日本人の純粋性やら精神やらを強調した、力の入りすぎた作品になってしまうことが多いからだ。

 あの映画は、アメリカ人が監督したからこそ、生まれた作品だ。

 「硫黄島からの手紙」では、主人公の栗林中将は「天皇陛下万歳!」と叫ぶ。「国のため忠義を尽くし、この命を捧(ささ)げようと決意している」とも述べる。「靖国で会おう」と言う人までいる。いずれも、戦後の教育を受けてきた者の多くが見ると、どきりとする言葉だ。「男たちのYAMATO」では、こうした台詞から言葉以上の深みを感じることができず、正直嫌だった。だがこの映画では、"軍国主義的な"日本軍将兵の言葉が、妙に心に残る。その奥にある、様々な気持ちが伝わってくるような気がした。

 殊更に勇ましくもなければ、必要以上に残忍なわけでもない。彩度を落とした映像で、硫黄島で闘い抜いた人々を、ニュートラルな立場から淡々と描いたことが、良かったのだろうか。

 当事者であるアメリカの映画人たちが、自分たちが闘った相手の人間性を描こうと正面から取り組んだ。その結果、抑えの効いた、心に訴えかける映画に仕上がったのだ。

 逆に、大平洋戦争にほとんど関係のなかった国、例えばスイス人の監督とかがこの映画を作っていたら、これほど胸に迫る作品にはならなかったはずだ。

 それにしても、硫黄島の闘いを2時間余りでまとめるのは大変だ。多くの人が指摘しているように、硫黄島戦の要とも言える地下要塞が一瞬で完成してしまい、その規模も伝わってこなかったのは残念だった。そこまでやると3時間を超えてしまいそうだが、それでも敢えてやって欲しかった…と思うのは、やっぱり僕が日本人だからだろうか。

 できるだけ多くの人に見て欲しい作品だ。