日本の旅行会社に勤めるAさんが、ガイドのKさんと韓国ツアーの話をしていた。
「韓国では、みんなが同じ鍋に自分のスプーンを入れてそのまま食べますが、やはり日本のツアー客には、取り皿と取り箸が必要だと思うんですよ」
これまで、多くの人が指摘してきた問題である。
「韓国の文化である、ということは理解しているんですが……。やはり、韓国に慣れていない旅行者のお客様は、どうしても気になってしまい、そのうち手をつけなくなってしまうんです」
ガイドのKさんは、ちょっと考えて、言葉を選ぶように答えた。
「そうですね、日本のお客様のためには、そういうことをしていかなくてはならないですね。でも、韓国の文化には、みんなでひとつの鍋を囲んでつつくというのがありまして……」
「それはわかるんですが、最近は、SARSの問題もありますし、衛生的にお客様もシビアになっているんです。ですから、やはり外国人向けには……」
「そうですね……。衛生のことも大事ですから、やはりそれはきちんとしていかなくてはならないですね。そうなんですけど、韓国の文化では取り皿を使うとよそよそしいということもあって、ひとつの鍋をみんなでつつくのが……」
堂々巡りである。
これは、韓国の地方でよく見かける光景だ。外国人が快適に旅をできるように、外国人向けの施設やサービスを充実していかなくてはならない。それは、わかる。衛生面に問題があることも、認識している。しかし、頭のどこかに、「これが誇るべき自分たちのやりかたなんだ」という意識があるようだ。
郷に入っては郷に従え。
韓国の、特に地方自治体の人がよく使う言葉だ。自分たちの生活文化を、そのまま見てもらいたい。そんな意識から出てくる言葉だが、奥底には、"外国人の習慣に合わせることはない”という意識が隠れている。"ありのままの姿を見てこそ旅だ"という思いもあるだろう。
ソウルの観光公社の人たちは、このギャップをよくわかっている。
6年以上前の話だが、韓国のある地方を観光公社の人たちと回ったときのことだ。昼食の席で、地元の観光課職員の口から、「郷に入っては郷に従えというように、当地を訪れた外国人の皆さまには、私たちのふだんのやりかたをそのまま体験してほしい」という言葉が出た。
これに、公社の人が反論した。「外国の人たちは、休暇で、ゆったりと過ごしたくて外国を旅する。せっかく我が国を訪れてくれた人に、外国の生活習慣に合わせたサービスを提供できなければ、誰も来てはくれない」。
食事中に突然口論が始まったのは驚いたが、韓国のインバウンドの現状がかいま見えたような気がした。
韓国の地方が、外国人にとって旅をしやすくなるのは、もう少し先のことだろう。しかし、それほど遠い未来ではないようだ。
コメント
ふむふむ納得して読んでいました。
確かに韓国に長く携わると
「郷に従えば」って言葉が
嫌になる事が多々ありました。
「ここは韓国なんだから」って言われたりするのが
とっても嫌でした。
が、やはりこれが顔が全く違うアメリカ人だったら
どうだろう?「せっかくここまできたし」って感じるかもしれません
なかなか微妙な問題ですね~
アメリカでも、旅行業者が「郷に入っては」とか言い出したら、やっぱり「はあ?」とか思うだろうな。
韓国の人たちで気になるのは、彼らは、自分が外国へ行くと全然郷に従わない場合が多いっていうことですねー。