済州島 突然の電話

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済州島で借りたレンタカー

 久しぶりの済州島シリーズ。

 5月16日の夕方。僕は、済州島で車を運転していた。某ガイドブックの改訂取材のためだ。

 携帯が鳴った。

「あのー、N出版のAですけど、くりはらさん、済州島の観光協会に、うちの名前で何か取材申し込みました?」

 へ? 今僕が取材しているのは、J出版のガイドブックであって、N出版ではない。N出版が出している旅行情報誌の記者として参加するのは、月末の韓国観光公社主催のプレスツアーだ。済州島は関係ないはずである。

「いえ、それが、済州島観光協会から、くりはらさんあてに、招待取材会の案内が届いてるんですけど……」

 全く身に覚えがない。N出版を騙って勝手に取材依頼したと思われたら困るので、きっちりしなくては。

「いや、知りませんよ? いや、確かに今、済州島にいますけど、済州島観光協会からコンタクトを受けたことはありません。それで、それはいつですか?」

「それが、明後日の朝7時に、成田空港Hカウンターに集合とか書いてあるんですが……」

 済州島にいる僕が、どうやって成田空港に集合するのか。

 そもそも、N出版とのつきあいは比較的新しく、僕がN出版の雑誌に書いていると知っているのは韓国観光公社だけである。ということは、済州島が日本のジャーナリストを紹介してほしいと公社に依頼し、僕の名前が出たに違いない。そして、「その人は、近く観光公社のプレスツアーに参加することになっている」という話が、「済州島のプレスツアーに参加することになっている」にすり替わったのではないか。ほかには考えられない。

 いかにも韓国らしい話だが、僕にとっては渡りに船だ。明後日ソウルに戻る予定だったが、時間が足りないと思っていたところだ。約束していた人妻とのデート*はキャンセルだが、やむを得ない。

「そうですか、それは大変失礼いたしました。こちらで手違いがあったようです。では、今済州島にいらっしゃるということは、航空券のほうはキャンセルさせていただいてよろしいですか。明後日の20時に、済州グランドホテルへチェックインしてください。お部屋をご用意しておきます。」

 一泊3000円のモテルから特級ホテルへ。済州島のシンデレラストーリーである。

「ありがとうございます。ところで、取材後、私は東京ではなくソウルに戻るのですが、その交通費は、あの……」

「すでに取材でチケットをお持ちとのことですので、それでお願いします」

 翌日、航空券を変更したら、週末料金で値段が1000円跳ね上がった。え、これ自腹ですか? 差額だけでも、観光協会で出してくれないかな……。

 特級ホテルにタダで泊まっておいて、セコイことこの上ない。これぞ、フリーランスである。

*語学学校の先生とのお茶会