韓国スキージャンプを訪ねて6

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▲騒然とする大会本部
「かげり! オールキャンセルだって!」
本部から出てきたジュさんは、泣きそうな顔をしていた。オールキャンセル?
そうだ、最後のグループで、下手なはずのテストジャンパーが風にあおられ120m飛び、危険だからとスタート位置が変更されたんだ。スタート位置が変わると、助走時のスピードが変化する。全選手が同じ条件で飛んでいないので、全体の順位がつけられない。そのため試合自体がキャンセルとなってしまった。普段のルールだったら、競技の途中でスタート位置が変更されることはなく、ファーストラウンドだけで試合は成立していた。「よりエキサイティングな試合にするため」試験導入されたトーナメント方式だったが、その試験のツケは、韓国が負わされることになった。今日の記録は残らない。国際スキー連盟の公式記録には、「Muju Canceled」と記されるだけだ。試合自体が、なかったことになってしまうのだ。本部は、まだ騒然としていた。
そしてその晩、この大会を放送したテレビ局はなかった。
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▲ユンジョンと、ドイツ国営放送ARDのスタッフと
「韓国のジャンプは、ステップバイステップです。まだ始まったばかりですよ」
3日後、僕はムンさんと札幌の焼鳥屋にいた。この日のサマーグランプリ札幌大会、韓国はフンチョル、ヨンジク、ヒュンキ、チルグの4人が出場したが、結果は惨敗。低スピードの争いについていけず、世界の壁の厚さを思い知らされた。試合は、日本の宮平秀治がシーズン2勝目を挙げ、日本のファンは歓喜に包まれていた。
「こんどの大会は、貴重な経験になりました。次に、いつ開催できるのかはわかりませんが…。またやりますよ」
そう言って、ムンさんはぐいっとジョッキを飲み干した。完全中継が売り物のドイツARDも途中で中継をうち切り、ファンの間では「幻の茂朱」と呼ばれた韓国サマーグランプリ。あれは、いったい何だったのか。でも、全くノウハウがない状況で、韓国の人たちはよくやったと思う。ヒュンキとヨンジクがファイナリストになったときは、確かに会場全体が、ジャンプ競技を楽しんでいたのだ。会場へ行く前に知り合った地元のおじさんも、わざわざ観戦に来て、ジャンプって面白いですねと言ってくれたのだ。次に茂朱で大会が行われるときは、また必ず応援にいきます。そう約束して、もう一度ビールで乾杯した。
韓国ジャンプチームの挑戦は、始まったばかりである。